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2010年7月10日 (土曜日)

藤沢周平原作「必死剣鳥刺し」

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 藤沢周平原作の映画『必死剣鳥刺し』が、7月10日全国公開が始まった。

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 http://www.torisashi.com/
 映画撮影は、山形県鶴岡市の「庄内映画村オープンセット」の他、遊佐町野沢辺りでも撮影が行われたと聞いている。
 きっと、鳥海山をバックにした画面も期待される。 

 この『必死剣鳥刺し』は「隠し剣狐影抄」に収録された短編だ。
 かなり前に読んだが忘れたので、再度読み直す。

 藩のために主君・右京太夫の側妾を刺殺した剣豪、兼見三左ェ門だったが、そのために主君の恨みを買い、結局は城中でなぶり殺しにあうという内容だ。
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 刃先は津田の鳩尾(みぞおち)から肺まで深ぶかと入りこんだ。
 「・・・・・・・・」
 鳥刺し、と三左ェ門は呟いたのだが、誰もその声を聞かなかった。
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 津田の絶叫を聞いて、数本の刀身が、三左ェ門の身体にあつまった。
 三左ェ門の巨躯は坐った恰好から、横転して畳にころがった。
 そして今度こそ動かなくなった。
 寒い冬が過ぎようとしていた。
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 久々に、この巧みな描写に感心する。
 豊川悦司が演じるのは、独自に編み出した必勝の剣「鳥刺し」を使う剣豪・兼見三左ェ門(かねみさんざえもん)。
 「必死剣鳥刺し」それは、必死必勝の剣。キャッチコピーは
 「その剣が抜かれる時、遣い手は半ば死んでいるとされる」。
 
 映画ロケは藤沢周平の出身地・鶴岡市の「旧風間家住宅丙申堂」や「庄内映画村オープンセット」のほか、遊佐町野沢近くの祠「十一面観音」界隈も使用しているという。

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 兼見三左ェ門が使う剣は、どのような秘剣だろうか。
  「剣を遣うときは半ば死んでいる」とは、どのような動きなのか。
 殺陣師の久世浩(65)は、平山秀幸監督とともに最も頭を痛めた場面だったという。
 下段に原作の最後の部分を引用してある。
 これを、豊川悦司がどのように演じるのか想像してみよう。
       (※時間に余裕があるとき、読んで下さい。)
監督:平山秀幸
脚本:伊藤秀裕
    江良至
原作:藤沢周平

豊川悦司(兼見三左ェ門)
戸田菜穂(妻・睦江)
池脇千鶴(里尾)
吉川晃司(帯屋隼人正)
村上淳(主君・右京太夫)
関めぐみ(側妾・連子)
岸部一徳(津田民部)
小日向文世(保科十内)
山田キヌヲ(多恵)ら。

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『隠し剣孤影抄』藤沢周平著(文春文庫)
■藤沢周平著「必死剣鳥刺し」から最後の「七」より引用
 「村井、光岡」
 呼んだが返事がなかった。
 三左ェ門は立って、隣の近習詰所の襖の前まで行ったが、不意にそこで立ちどまった。
 そのときには、襖の外に異変を感じとっていた。
 三左ェ門は襖にむいたまま、静かに部屋の中を後にさがり、さがりながら刀の鯉口を切り、肩衣をはねた。
 「いかがした、兼見。誰かをよこさんか」
 執務部屋の中で、右京太夫のいら立った声がした。
 その襖ぎわまで後退すると、三左ェ門は、小声でお上と呼んだ。
 「石滑が来たかも知れません」
 「なに?」
 「斬りあいがはじまるかも知れません。物音を聞かれたら、打ちあわせたように、奥の出口から、外へ出て頂きます。そこに警護の者がおりますゆえ」
 「よし、わかった」
 右京太夫が立ちあがる気配がしたのと、近習部屋の襖がさらりと開いたのが、ほとんど同時だった。
 そこに帯屋隼人正が立っていた。
 そして考えたとおりに、近習部屋は空っぽだった。
 多分隼人正がどこかに立ちのかせたのだ。
 「そなたが、独心無名流の遣い手か。兼見と申すそうだな」
 隼人正は、しばらく三左工門を見つめたあとでそう言った。
 三左工門は黙っていた。
 「大きな男だの」
 「・・・・・・」
 「そこを通してくれぬか。右京太夫に話がある」
 「通すことはなりませぬ」
 と三左ェ門は言った。
 言うと同時に、皮膚から髪の中まで寒気が走りぬけて、三左ェ門は徴かに身ぶるいした。
 [ぜひとも談合したいことがある。通せ」
 「いや、なりませぬ」
 「わしと斬りあってもか」
 「いかにも」
 隼人正はじっと三左ェ門を見つめ、見つめながら、羽織をぬいだ。
 「では、通る」
 隼人正は刀を左手にさげたまま、部屋の中に入ってきた。
 「お手むかいしますぞ」
 三左ェ門は言うと刀を抜いた。
 同時に隼人正も抜き、鞘を捨てていた。
 すばやい動きだった。
 その瞬間、胸に垂れる髭が揺れて、宙に躍ったように見えた。
 隼人正は無造作に間合いを詰め、青眼から肩に打ちこんできた。
 すさまじい迫力を乗せた一撃だったが、三左ェ門はその剣をかわさずにはね上げた。
 その一合のあと、隼人正はすばやくしりぞいて、遠い間合いを取った。
 三左ェ門は追わなかった。
 青眼に構えをかためながら、相手の様子をうかがった。
 左腕のつけ根のあたりに痛みを感じたのは、その時になってからだった。
 うまくはねたつもりだったが、隼人正の俊敏な剣は、その前に浅く三左ェ門の肩口にとどいたらしかった。
 「お考え直しください、ご別家」
 三左ェ門は刀を構えたまま呼びかけた。
 「狂気の沙汰ですぞ、この斬り合いは」
 「いや」
 隼人正は薄く笑った。
 「邪魔する者は斬る」
 隼人正は、少しずつ間合いをつめてきていた。
 ---来る。
 三左ェ門は、隼人正が詰め寄るのにあわせるように、無意識にむかし、もっとも好んだ下段に構えを移していた。
 その構えをみて、隼人正は一たん足を引きかけたが、思い直したように猛然と断りこんできた。
 一閃の影が動いたように迅い動きだった。
 斬られた、と三左ェ門は思った。
 そう思いながら、三左ェ門は身体を沈めて、掬い上げる剣をふるっていた。
 はじかれたように、隼人正の身体が襖まで飛び、大きな音を立てた。
 三左ェ門の一撃は、隼人正の脇腹を深ぶかと斬っていた。
 隼人正は訝しむように三左ェ門を見つめたが、不意に刀をとり落とすと、膝をつき、だんだんに首を垂れて、ついに前に転んだ。
 そのまわりに、すぐにおびただしい血がひろがった。
 その姿をたしかめてから、三左ェ門は刀をおろし、右肩に手をやった。
 かわしも受けも出来なかった隼人正の一撃に、斬られたと惑じたのは間違っていなかった。
 肩をさぐった三左ェ門の指は、いきなり肉に埋まった。
 焼けるような痛みが、そこから全身にひろがって行く。
 眼が暗くなった。
 傷口を押さえたまま、三左ェ門はあたりを見回した。
 そして呻き声を途中でのみこんだ。
 三方の襖が開かれていて、いつの間にか、そこに大勢の人間が立っていた。
 人びとは黒く立ちならび、なぜか無言で三左ェ門を見つめている。
 「手傷を負い申した」
 三左ェ門は、ぎこちない微笑をうかべた。
 「どなたか、手を貨してくだされ」
 すると、聞き馴れた津田民部の声が、見たぞと言った。
 三左ェ門はそちらに顔をむけたが、黒い人影が眼に映るだけで、どれが津田かはわからなかった。
 「見ごとだな、必死剣鳥刺し
 三左ェ門は微笑した。
 微笑して、よろめきながら立っていた。
 いや、いまのは鳥刺しの秘剣ではござらぬ、と言おうとしたとき、津田が叫んだ。
 「兼見が、乱心して隼人正さまを斬ったぞ。逃がさずに斬れ」
 三左ェ門は、反射的に刀を構えた。
 刀はひどく重かったが、眼の前に殺到してきたものを斬った。
 ---乱心だと?
 横から斬りかかってきた者を、体を開いて斬って捨てながら、三左ェ門は必死に津田の言葉の意味を探ろうとした。
 背に痛みを感じ、振りむくと同時に斬り払ったが、刀は空を切った。
 そうか、おれに隼人正さまを斬らせるために罠を仕組んだのだ。
 そう思ったとき、三左ェ門は声をのんだ。
 ---お上だ。
 お上は連子を剌された恨みを、決して忘れたりはしなかったのだ。
 腹を切らせなかったのは、不仲の隼人正を始末する道具に使うためだったのだろう。
 生かして使うほうが、得でござります、と津田民部がすすめたのだ。
 ---無残だ。
 三左ェ門は自嘲の笑いをうかべた。
 いまごろ気づいた自分を嘲っていた。
 ぼろぼろに斬りさいなまれているのがわかった。
 それでも三左ェ門は限の前に立ちふさがる黒いものにむかって反射的に刀をふるっていた。
 刀は時おり肉の手ごたえを伝えた。
 限はほとんど見えなくなっていたが、三左ェ門は、部屋のどこかにいて、自分の最期をひややかに見まもってっている右京太夫の視線を感じた。
 その視線にあらがうように、三左ェ門は刀を構え、眼の前をよぎる影のような心のに刀を叩きつけた。
 だが鋼鉄のような男にも、ついに最後のときがきた。
 横から組みつくように突っこんできた刀に、腹を深くえぐられて三左ェ門はどっと膝をついた。
 そして立てなくなった。
 刀にすがるようにして斜めに身体をかたむけたまま、三左ェ門は動かなくなった。
 「しぶとい男だったが、やっと参ったか」
 津田民部が、三左ェ門の前に立ってそう言った。
 津田をたしかめるように三左ェ門の顔をのぞき、腰をのばすと三左ェ門が握っている刀を蹴ろうとした。
 絶命したと思われた三左ェ門の身体が、躍るように動いたのはその瞬間だった。
 三左ェ門は片手に柄を握り、片手を刀身の中ほどにそえて、槍のように構えた刀で斜めに突きあげていた。
 刃先は津田の鳩尾(みぞおち)から肺まで深ぶかと入りこんだ。
 「・・・・・・・・」
 鳥刺し、と三左ェ門は呟いたのだが、誰もその声を聞かなかった。
 津田の絶叫を聞いて、数本の刀身が、三左ェ門の身体にあつまった。
 三左ェ門の巨躯は坐った恰好から、横転して畳にころがった。
 そして今度こそ動かなくなった。
 寒い冬が過ぎようとしていた。
 野にはまだ雪が残っていたが、野を真直ぐに走る道は、黒く濡れて日に光っていた。
 里尾は鶴羽村のはずれに立って、野をわたり丘の右手に消えている道を眺めていた。
 風が寒いので、さっきから何度も、厄介になっている百姓家に引き返そうとしながら、そのたびに丘のむこうから叔父の三左ェ門があらわれそうな気がして、里尾はふんぎり悪くその場所に立ちつづけていた。
 里尾は懐に赤子を抱いていた。
 生まれて間もない男の子だった。
 三左ェ門の子である。
 細い脹や大きな口が、あまりに叔父にそっくりなので、里尾はながめているうちにおかしくなって忍び笑いを洩らしたりする。
 身ごもっていることを知ったのは、鶴羽村にきて三月ほどたったころだった。
 それから子供を生むまでの月日ほど、里尾にとってしあわせな日日はなかった。
 里尾がいる百姓家の人びとは親切で、子供を生むのに何の心配もいらなかった。
 生まれてしまうと、三左ェ門にその子を見てもらいたい気持が募った。
 それで時どき村はずれまで見にくる。
 「今日もいらっしゃらなかったのね」
 子供が泣き出したので、漸くふんぎりがつき、里尾は子供に囁きながら、野に背をむけた。
 迎えに行くと言った三左ェ門を、里尾は信じていた。
 その日が来たら、どんなにしあわせだろう、と思いながら、里尾は村の中の道をゆっくり歩いた。
 赤子は力強く泣きつづけていた。(本文より引用)

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